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自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を自書し、これに押印することによって成立する遺言です。遺言方式の中では、最も簡便な方法で、費用も要せず、遺言書の作成事実や内容を秘密にできるという利点があります。一方デメリットとして、遺言書の紛失、隠匿、改変等の危険がある上に、家庭裁判所による検認手続を必要とします。
…という解説に続いて遺言書の文例が示されいる書籍等を参考にして皆様お書き頂いていると思います。文例の注意書きに不動産の表示について登記簿通り正確に書くこと、とあるのが通常です。幾つもの不動産をそれぞれ別々の相続人に遺したいのであれば、どの不動産を、誰にということを明確に挙げる必要から登記簿通り正確に不動産を記載して行く必要があります。ですから複数不動産をお持ちのある程度資産家の方に当てはまる注意書きなのかもしれません。
もっといえば資産家の方は税理士等の専門家のアドバイスを受け公正証書遺言を作成する傾向にありますので、不動産の表示方法で不備のある遺言書はあまりお見受け致しません。
しかしながら書籍の文例をご覧になって自筆証書遺言を作成された場合にはよく起こるミスがあります。自宅を相続させたい目的から自宅の土地、建物の表示は登記簿通りしっかり記載されているのですが、記載が漏れてしまっているケースとして、前面道路に持分を持っていたり、ゴミ置場の共有持分を持っていたり、マンションであれば集会所等の共用部分の持分を持っていたりということが多々あります。記載が漏れてしまった共有持分の移転登記をするためには、相続人間で改めて遺産分割協議を行う必要があります。このような重大なミスを防ぐ対処方を申し上げます。
一人の相続人に唯一の不動産である自宅を相続させたいのであれば、次のように遺言書に記載することをお勧めします。「遺言者所有の不動産全てを長男〇○に相続させる」不動産全てと書けばいいのであって不動産の表示を細かく書く必要もありません。ごく短文で書き漏れ、書き間違えの無い、そのうえ効果は最大の遺言書を書くことができます。
過去には最も短文で最大の効果を発揮する遺言書の作成を依頼されたケースがあります。病床で死期が迫った方が書く自筆証書遺言の文案です。かろうじて文章を自書できる状態とのことで文字数を最小限におさえた結果、本文43文字で全財産を第三者へ遺贈し、遺言執行者選任まで記載することができました。遺言書作成後1週間で本人はお亡くなりになったそうですが、文字通り亡くなった方の最後の意思を表示した文章であり、ふるえた文字で書き遺された遺言書は特に印象に残っています。