死亡退職により支給される死亡退職金は、主として遺族の生活保障を目的としていると考えられるため、受給者固有の権利として評価することができます。
したがって、死亡退職金は遺産分割の対象とはならないことが通常であり、この場合には社内規定で定められた受取人が死亡退職金を受け取ることになります。なお、社内規定が民法上の法定相続人や法定相続分の定めと一致するとは限らず、たとえば配偶者と子がいる場合でも、配偶者のみが受取人となるようなこともあります。
法令や内規において民法とは異なる受給者の範囲や順位が定められている場合には、遺族固有の権利と解され、相続の対象になりません。
例えば、企業の内部規約で受給権者を単に「遺族」と定めているにすぎない場合についても、受給権者を定めた規定の趣旨が、専ら死亡者の収入に依拠していた者の生活保障を目的としていると考えられる場合は、遺族固有の権利と解され、相続の対象とはならないと考えられます。
したがって、このような規定がない場合は、相続財産と解する余地があり、具体的事情いかんでは、相続財産として遺産分割の対象となる場合もあります。
その場合には、遺産分割協議によって受取人とされた者が死亡退職金を受け取ることになります。
相続税課税との関係
死亡退職金は、受給権者固有の権利として遺産分割の対象にならない場合であっても、税法上は「みなし相続財産」として課税対象になります。
もっとも、死亡退職金の全額が課税対象にとなるものではなく、500万円×法定相続人の数(相続放棄をした人を含む)の金額については、非課税となる控除があります。
特別受益性について
死亡退職金を受給者固有の権利として受取人が受け取った場合に、その金額が他の遺産に比べ、あまりに高額である場合には、特別受益ないしこれに準ずるものとして相続割合が調整されることがあり得ます。
この点、事例ごとに裁判所の判断は分かれており、共同相続人間の実質的公平の点から特別受益になると判断したものもあれば、死亡退職金を特別受益とすると、かえって共同相続人間の公平を欠くことになり、受け取った者の生活保障を奪うような場合には、特別受益にならないと判断するものもあります。