Q 父と同居している長男が、どうやら父に遺言書の作成を勧め、公証人役場で遺言書を作成した模様です。
長女である私は結婚して家を出ている為、同居をいいことに長男が自分に有利となる遺言書を父に作成させたのではないかと心配しています。
公証人役場には遺言検索システム制度があると聞いたのですが、父の生存中に公証人役場から直接遺言書の内容を知る術はあるのでしょうか?
A 残念ながら、遺言者の存命中に公証人役場から遺言の有無や遺言の内容を遺言者本人以外に伝える(謄本や閲覧)制度は有りません。
本来遺言には、遺言をしたこと及びその内容を他人に知られたくないという強い要請があり、遺言者の生存中は本人の同意がない以上、たとえ推定相続人であっても、他に漏泄することは認められません。
加えて、遺言者生存中では、遺言公正証書の中で受遺者や財産を相続させる者として記載されている者からであっても謄本等の請求は認められません。
したがって、遺言者の生存中は、遺言者本人か遺言者より委任を受けた任意代理人に限り謄本等の請求が出来る事となります。
遺言者の生存中は後見人等の法定代理人であっても謄本等請求は出来ません。
成年被後見人が正常な時にした遺言公正証書について、その後見人からの謄本請求は認められないとされています。(S63.12.2民一第6767号民事局長通達)
通常、公証人役場で遺言書を作成したら、その場で嘱託人(遺言者)の請求により正本1通、謄本1通を交付してもらい、謄本は遺言者が所持し、正本は受遺者や遺言執行者が所持するケースが多いといえます。
事例でいうと、財産を貰うであろう長男は遺言執行者に指定されている事でしょうから、遺言公正証書の正本を所持していて、父の死亡後にはこの正本によって遺言内容の実現を単独で行うことが出来ます。
長女の遺留分が侵害されている遺言内容であったなら、長女は父の死亡後に遺留分侵害額請求で長男に対抗出来るにすぎません。
長女は父の生存中に遺言内容を知りたいのであれば、父本人に遺言書謄本を見せてもらうか、長男から見せてもらうかしか方法がありません。
父が元気なうちに関係改善を図り、父に公平な遺言書に書き直してもらうことを考えるのが得策でしょう。
遺言者の死亡後、相続人など利害関係人は、最寄りの公証人役場で遺言検索システム制度を利用して遺言書の有無を照会のうえ、実際に保管がされている公証人役場で、遺言公正証書の謄本を請求することが出来ます。
遺言検索システム制度とは
毎月、公証人から報告される遺言公正証書の作成情報を日本公証人連合会がデータベース化して、相続人等の利害関係人から遺言書の有無についての照会に対応できるように運用されているものです。
平成元年(昭和64年1月1日)以降に作成された遺言公正証書の情報が登録されています。
遺言検索システムに登録された情報は全国どこの公証人役場からでも照会可能となっており、登録されている情報は遺言者の氏名・性別・住所・生年月日や遺言書作成日、作成した公証人役場名などです。
※・遺言書の内容については照会できません。
・遺言者の生存中には遺言者本人以外は照会できません。
なお、遺言者の死亡直前に作成された遺言書については、月締めであるシステムの関係上、死亡直後の照会では未登録となっている可能性があり、その場合は時間をおいて再度検索したほうがよいでしょう。
遺言公正証書の原本は、作成された公証人役場で厳重に保管されているため、そこで謄本の交付を請求して内容を確認することができます。
相続手続きの前提として、遺言書の有無について確認しておく必要があります。遺言書の有無や保管場所が明確でない場合は、まずは最寄りの公証人役場で遺言検索システムによる照会をしてみましょう。
検索可能な人
①遺言者の生存中は遺言者本人およびその代理人のみ
②遺言者死亡後は相続人、受遺者、遺言執行者などの利害関係人およびその代理人
必要書類(通常は上記②の遺言者死亡後の照会になるので②のケースの必要書類)
•遺言者の死亡の事実を証明する書類(遺言者の死亡の記載がある戸籍(除籍)謄本)
•請求者が利害関係人であることを証明する書類(相続人であることが確認できる戸籍謄本)
•請求者の印鑑と身分証明書(運転免許証などの写真付き本人確認書類)
※代理人による請求の場合
上記のうち請求者の身分を証明する書類等に代えて
•代理人の身分証明書と印鑑
•代理権限を証明する委任状(請求者の実印が押印されているもの)
•請求者の印鑑証明書(発行から3か月以内)
費用
遺言検索は無料です。
保管されている公証人役場がわかったら謄本の請求をしましょう。
※謄本の交付は用紙1枚につき250円です。
遺言書検索システムにより、遺言書が作成されていたこと、原本が保管されている公証人役場がわかれば、その公証人役場まで出向いて、謄本の交付を請求することにより、遺言書の内容についても確認することができます。
謄本の請求に必要な書類は遺言検索と同じなので、遺言検索で集めた書類をそのまま使い回せます。
公証人役場では、現在のところ郵送での遺言検索や謄本請求には対応していません。
健康上・身体上の都合等ご自身で出向くのが難しい方や、遺言書が保管されている公証人役場が遠隔地の場合は、司法書士などの専門家に代理を依頼しましょう。
